伝統の昇華~魅力を新たな領域へ~

理事長所信

第55代理事長 時枝弘記

はじめに

日本人は先祖を大切にするという時間を軸とした縦糸と、家族をはじめ仲間や隣人を大切にするという空間を軸とした横糸を古くから連綿と今に紡いできました。世界で一番長く続く国の民であるがゆえに、潜在意識の中に太古から受け継がれてきた先祖に対する感謝の気持ち、自然への畏敬の念、そして周囲に対して礼節を重んじる心を育んできました。災害などが起き困難な状況にあっても、自己中心的ではなく、他人への配慮を忘れないその姿が、世界から大きな賞賛を受けたのは記憶に新しいところです。そして私たちに受け継がれているそれらの精神は、たやすく変化するものではありません。しかし、何より大切な伝統精神として、素晴らしい形で次世代へ守り伝えていくために、より強く意識する必要があるものと考えます。

創始の志

我々の活動の根源は「淡路はひとつ」という「創始の志」であります。1963年の設立時、先輩諸兄が未来を見据え描かれた想い、そして今日に至るまで情熱をもって遂行されてきた運動や活動があるからこそ、今当たり前に存在するこの環境に心からの感謝を忘れてはなりません。 本年、その「創始の志」に想いを馳せる節目の年となりました。節目の年において最も重要なのは、神道の言葉を借りるなら「中今」という思想であります。今の自分は点として生きているのではなく、過去と未来を繋ぐ線上に生きているという考え方です。過去をしっかりとした形で未来へ繋ぐためには、これまでに積み重ねられてきた歴史を単に振り返るという程度のものではなく、強烈に意識し理解する必要があります。かつての周年とはメンバー数においても経験値においても大変厳しい現状であると認識しています。しかし、だからこそ、チャレンジできるものがあるのも事実です。54年の歴史をメンバー全員に刻み、そして、若さゆえの何事も怖れない勇気と発想力を駆り立てることで、より良い形で受け継がれるべき淡路JCの道を明らめることができると確信しています。

伝統の昇華

我が国最古の歴史書である「古事記」に書かれている伝承には、本来日本人が大切にしなければならない精神が記されています。「淡路島」は、その冒頭を飾る「国生み神話」の中心的な舞台であり、それは、日本で最初に誕生した島、つまりは日本の「はじまりの地」という唯一無二のアイデンティティを持っていることを表しています。 昨年、この「国生み神話」を核とした島内全域にまつわるストーリーが、文化庁の「日本遺産」に認定されました。「日本遺産」は地域に残る文化財を活かした観光振興施策であり、2020年の東京オリンピックに向け、大都市だけではなく地方に人の流れをつくるためのインバウンド(訪日外国人)誘致施策でもあります。淡路JCとして「日本遺産」創設当初から関わり、淡路島三市をはじめ関係諸団体の皆様方にご理解とご指導を得、「淡路島」が一丸となって強く推進してきたからこその認定は、まさに悲願成就という言葉がふさわしい結果と言えるでしょう。しかしながら、それはあくまで一つの通過点であり目的ではありません。今後は「日本遺産」という武器を手に、「淡路島」の独自性を圧倒的魅力に昇華させ、「淡路島」が一体となった意志決定を行う必要があります。すなわちそれは、「はじまりの地」という唯一無二のアイデンティティを磨き上げ、世界にその存在を示すという事であり、それを「淡路島」という意思決定機関を持って推し進めていくという事に他なりません。またそれだけでなくそのアイデンティティを地域に住む人々がしっかりと認識し、主体的に携わっていくことが必要不可欠であり、さらには内輪だけにその価値をとどめるのではなく、より広域的に多くの人を巻き込んでいく必要があります。そして、その際に重要なのは時代に即した斬新で刺激的な手法、見た目の美しさやセンスの良さなどをもって人の心を掴んでいくことです。歴史や伝統を背景にしたものはどうしても保守的にならざるをえず、価値を守っていくという土壌が優先されがちになります。しかし、それらを活かす魅せ方の工夫や方法論がなければ伝播していきません。いつの時代も若者世代の興味が時代を動かしていくように、次世代への土壌づくりを視野に入れた活動が必要になってくるものと確信します。

継続と発展

近年、減少し続ける会員数に歯止めをかけるために、是が非でもという想いで会員拡大を行ってまいりました。それは、これまでの先輩方が残してこられた歴史と伝統を死守し、未来へ繋ぐための大前提であるからです。その結果、入会人数という意味では明確な成果を出すことができておりますが、卒業生が多い年が続き現状は若干の減少傾向にあります。近年の成果を受け止めその想いは継承しつつも、今年度は特に今後を担う世代に、より一層フォーカスを当てていく必要があるものと考えます。なぜならば次代を担うメンバーの育成こそが組織の継続的な発展を生むからです。会員拡大活動において必要なのは発信力であります。当然会員数が少なければ発信力が弱くなると考えられがちですが、それは活動を縮小している場合に当てはまることです。社会に対して影響力のある活動を行っている自負があるからこそ、戦略的かつ効果的な広報をすることで発信力は高まります。我々の志を、より魅力的かつセンセーショナルに伝え多くの若い世代の心をがっちり掴んでいきましょう!

最後に

地域のために活動する前に、まずは地域に生かされ育まれてきたことを振り返る必要があります。人は自分の知る範囲外にもたくさんの人に支えられ、助けられています。自らの幼少期に想いを馳せてみましょう。情緒あふれる懐かしい風景や人々とのさまざまなふれあいは、美しい想い出として人生の中で大切な部分を占め、苦しい時や悲しい時の心の支えになっているはずです。実はそれそのものが周りに育まれたということであり、人を含め地域から受けた大きな恩なのです。あなたがいま元気にしていられるのは、まぎれもなく多くの人の助けがあったからではないでしょうか。その感謝の気持ちを、よりいっそう地域に貢献する想いへと変えていきましょう。そして今後生まれてくる子どもたちの素晴らしい未来を描き、今を懸命に生きることに価値を見出しましょう。40歳までの限られた時間を燃え滾るような情熱で行動してまいりましょう。それが未来の新たな伝統となることを信じて。

PAGE TOP